今日は、欧州で7/14に発表になった、2050年の気候中立達成のため、2030年までに温暖化ガス(GHG)を90年比-55%を目指す政策パッケージ ”Fit for 55 package”について、その中の一つの法案である”自動車CO2規制”における欧州議会側の今後のキーマン(ラポーター)が決定したので、その内容と今後の展望について解説したいと思います。
ラポーターとは?
結論から言うと、
その法案に対する欧州議会側の取りまとめ役(主担当者)という事になります。
ここで、欧州での法規策定プロセスを少しおさらいしますが、ざっくり以下のような流れになります。
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1.欧州委員会による法案提出
2.欧州議会:担当委員会の決定→ラポーターの選任→修正案策定
3.欧州閣僚理事会:専門会議体にて議論→修正案策定
4.最終的に妥協案として欧州議会/欧州閣僚理事会双方が同一文書にて採択
5.法案成立→発効
ラポーターの役目として重要になってくるのが、当然、上記2.と4.のフェーズとなってくるのですが、
先ずはラポーターが修正案の素案を作成し、その後、全部で751人いる欧州議会議員の意見を最終的に取りまとめ、一つの議会提案を作成し、4.の断面では、欧州閣僚理事会側との意見が食違った場合など、その調整役の筆頭として大変重要なポストという訳です。
従って、このラポーターがどの政党から、また、どの国出身の人物かという部分が、その後の議会審議に大きな影響を与える事になり、関係者にとっては非常に関心の高い案件なのです。
自動車CO2規制のラポーターにJan Huitema氏が就任
先ず、各法案における欧州議会審議の進め方として、議会内にある各委員会(環境委員会、運輸委員会、産業エネルギー委員会など)の中から、メインとサブ委員会を指定し、メイン委員会の中からラポーターを人選する事になります。
今般、欧州自動車CO2規制におけるメイン委員会は、Envi-committee(環境委員会)となり、そのラポーターに、オランダ出身のJan Huitema氏(ヤン フートマ氏)が正式に就任しました。(リンクはこちら)
このJan Huitema氏は、Renew Europe(旧ALDE)という政党に所属している議員であり、このRenew Europeは、中道リベラル派の政党として位置づけられいます。
下記のグラフは、現在の欧州議会の各政党の勢力図です。
一番左の極左政党(いわゆる環境グリーン派)から右に行くほど右派政党(産業寄りの政党)という図になっています。(無所属政党のNIは便宜上、一番右に置かれています)
ご覧の通り、Renew Europeは議席数100を超える3番目に大きな政党ですが、ほぼ中立の立場から物を考える政党として言われています。
しかしながら、政党内の各議員には各々のスタンスを持っている訳ですから、環境派もいれば産業寄りの議員もいるのです。
従って、ラポーター本人がどのようなスタンスを持っているのかが、大きなポイントになってくるのです。
ちなみに、ラポーターを補佐する役目のシャドーラポーター(副担当者)も既に下記の通り決定されております。
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Jens GIESEKE氏(EPP:ドイツ)
Sara CERDAS氏(S&D:ポルトガル)
Bas EICKHOUT氏(Green/EFA:オランダ)
Jan Huitema氏のスタンス
議員個人のスタンスを把握する一つの手法としては、過去、その人物がどのような修正案を出していたかを知る方法です。
今回発表された自動車CO2規制の改訂案では、2030年、2035年のCO2削減目標値が下記のように強化された提案が出てきているのですが、(参考記事:【解説】欧州自動車CO2規制:ZLEVインセンティブの概要と今後の見込み)
【資料】筆者作成そもそも現行制度((EU) 2019/631)を策定していた2018年の時点で、このHuitema氏がどんな修正案を出していたのかを確認してみると主に以下3点に集約されます。(この他にも多々、細かな修正案はあり)
1.2025年目標値:-25% (当時の欧州委員会提案は-15% → 最終的な採択は-15%)
2.2030年目標値:-50% (当時の欧州委員会提案の-30%に対して → 最終的な採択は-37.5%)
3.ニッチOEMのデロゲーション(年間30万台以下のメーカーに対する免除規定): 即時廃止 (当時の欧州委員会提案は25年以降廃止 → 最終的な採択は28年末まで維持)
このように、2018年当時から非常に野心的な環境志向を持つ議員という事が分かりますし、環境先進国でもあるオランダ出身というバックグラウンドも大きな要因かと思います。
今回の改訂提案においては、上記3.のニッチOEMのデロゲーションについて触れられておりませんが、前回の提案を見て分かるように、あらゆる免除規定は可能な限り削除すべきとの思想のため、今後、この免除規定の即時撤廃に関わる修正案が出てくる事は容易に想像できるという事です。
日本の自動車メーカーでは、スズキやスバルなどがこのニッチデロゲーションの恩恵を受けており、もし仮にこの免除規定が即時廃止となった場合は、相当なインパクト(CO2目標値未達からくる多額の罰金が発生)が予想され、これら該当メーカーにおける欧州ビジネスを根本から考え直すレベルの話になってくるという事なのです。
またUpdateがあり次第、ご報告したいと思います。
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