【徹底解説】欧州議会・環境委、2035年ガソリン車販売禁止提案を承認、2025年削減目標値も強化へ

EU CO2 standard (cars/vans)

欧州議会の環境委員会(ENVI-committee)は5/11、昨年7月に欧州委員会(EU‐committee)より発表された「欧州自動車CO2規制の見直し提案」に対する投票・採択を実施した。
本日はその採択内容について徹底解説したいと思います。

✔本記事のもくじ

  • 1. 議会審議のこれまでの流れ
  • 2. 欧州議会・各委員会の採択内容・比較
  • 3. まとめと今後の見通し

1. 議会審議のこれまでの流れ


先ず、欧州議会におけるこれまでの審議状況について解説します。

昨年2021年7月14日に、欧州委員会(EU-Com)から見直し提案が出された後、欧州議会(750名の議員によって運営される議会)、欧州閣僚理事会(EU加盟各国政府によって運営される組織)の双方にて提案内容が審議され、更なる修正提案が出された後に、各々のポジションを投票・最終採択します。

欧州議会では、各法案審議に対して、リードcommitteeと言われるメイン委員会とオピニオンcommitteeと呼ばれるサブ委員会が指定されます。

今回の自動車CO2規制については、メインが環境委員会(ENVI-committee)。サブに産業・エネルギー委員会(ITRE-committee)と運輸委員会(TRAN‐committee)が指定されました。

昨日のENVI-Com投票採択を前に、ITREが4/20TRANが4/28に既に投票採択し、オピニオンcommitteeレポートとして最終化されました。
なお、サブ委員会からのオピニオンは法的拘束力はなく、あくまでも参考意見として取り扱われる事に留意が必要です。
重要なポイントは、メイン委員会の採択内容にかかってくるという事になります。

昨日投票されたENVI委員会の採択内容は、①各議員から提出されたAmendment修正案(AM):(約650項目:Part1/Part2)、②この650の修正提案を踏まえ、ラポーター(委員会審議のリード・取りまとめ役)が集約したCompromise amendment(CA:妥協案)③投票結果とこの3点から確認する事ができます。

投票方法としては、
基本的には上記②のCA案(Compromise amendment案)を優先に投票しますが、CA案に含まれない修正案もあるため、当該CA案が否決された場合も含めて、その場合は各個別のAM(Amendment)の投票になります。
結果の見方としては、
③の投票結果を見ます。+が賛成票数、-が反対票、ゼロが棄権数を表します。投票にかかった各CA/AMごとに各々、どの議員が賛成票もしくは反対票を投じたのかまでわかるようになっています。

そう見ますと、例えばCA案の中で
採択合意されたのは、CA2, 3, 4, 6, 7, 9, 10, 11, 12であり、
否決されたのが、CA1, 1a, 5, 8, 8a, 13, 14である事が分かります。
後は、各々のCAやAM内容を見て、内容を確認します。

2. 欧州議会・各委員会の採択内容・比較


それでは早速、各委員会の採択内容を見ていきましょう。
各委員会の比較をサマリーにしました。

(PDFで表示)

主なポイントを以下にまとめます。

  • 1.CO2削減ターゲット
      2025年:乗用車が-20%(当初案の-15%から強化
      2027年:中間目標の削除(当初-40%/-35%)
      2030年:欧州委案(‐55%/-50%)を支持(当初-70%/-65%)
      2035年:欧州委案(‐100%)を支持
  • 2.ZLEVインセンティブ(CA4)
      2025年以降廃止(欧州委案の2030年以降廃止から前倒し)
  • 3.E-fuel/Alternative Fuelの扱い
      2025年以降のプログレスレポートを通じて、当該燃料のCN(carbon neutral)貢献度を再評価(CA9)
      TRAN委で採択されたクレジットメカニズム導入は僅差で否決(CA14)
  • 4.LCA算定手法(CA2)
      2023年末までに策定し公表(ITRE/TRANと概ね同じスタンス)
  • 5.エコイノベーション(CA6)
      上限キャップについて、現行7gを2024年まで維持し、2025年5g、2027年4g、2034年迄2gに段階的に縮小
  • 6.その他
    • 少量生産メーカー(乗用車年間販売台数:1000~10,000台)の免除規定:2030年以降廃止(CA5/CA5aともに否決され欧州委案を支持)
    • 中間レビュー:2027年に実施(欧州委案の2028年から1年前倒し)
    • OBFCM:車載燃料消費計から得られるリアル環境データを使用した法規見直しを2025年までに実施(CA7)
    • CO2排出量123g以上の乗用車2030年以降販売禁止(AM337)
    • 水素エンジン車両:ZEV(Zero-emission vehicle)とみなす(AM333)

3. まとめと今後の見通し


今回のENVI委員会採択結果の中でも特筆すべきは、やはり、2027年および2030年の目標値を当初案からかなり譲歩してきた事でしょう。
2027年/2030年の目標値は上述の通り、欧州委員会案より厳しい修正案がCA1(Compromise amendment1)として投票に係りましたが、44対44の同票にて否決され、結果的に欧州委員会提案に落ち着いた形になりました。

ロシア-ウクライナ問題から影響している資源価格高騰、エネルギー供給に関わるロシアからの輸入依存度の低減をする必要があるなど、このようような状況から過度なグリーン政策はかえって国民の足かせとなるという世論や欧州議員のマインドにも昨今根付いてきており、環境一辺倒であったこれまでとはやや現実路線となり、足元を見た投票結果になったとも言われています。

また、自動車メーカー側として直近の車両ラインナップ、販売戦略に大きなインパクトがある2025年のCO2目標値が-20%になったというのもかなり注目されます。
欧州委案とたった5%の違いですが、2025年以降ZLEVインセンティブというEVやPHEVを販売した際に得られるCO2ボーナスも廃止される事から、影響が大きいのです。

2025年の目標値のAmendment(詳細)
CA1:-15%(44対44)、CA1a:-15%(43対45)ともに否決され、(下記の提案)

その後、個別Amendmentの投票に移り、AM237(Amendment237):-20%が1票差の44対43で採択されました。(下記参照)


さらに、合成燃料(E-fuel)やAlternative-Fuelsの扱いですが、TRAN委員会が採択した、クレジットメカニズム導入(内燃機関車両+E-fuelのセットに対して、何らかのCO2インセンティブ/クレジットを付与し当該OEMに対してCO2値に対する恩恵を与えるメカニズム)は僅差で否決され、2025年以降に再度、その時の再エネ供給量や、技術革新度などを見極めて再評価となりました。

今後、欧州議会ではプレナリーという議会本会議(次回は6/6~9)でこのENVI委員会採択内容をベースに最終投票し、欧州議会の最終的なポジションを固める事になります。

その後、欧州閣僚理事会側のポジションも夏前には確定し、夏休み後の秋以降、3者協議(トライアログ)と呼ばれる欧州委員会、欧州議会、欧州理事会による妥結点を探る協議を経て、2022年年末をメドに最終合意にもっていく流れとなっております。

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