【欧州最新動向】EV普及に欠かせないもう一つの充電インフラ規制、EPBDとは?

Charging point

EVの普及に欠かせないのが充電インフラ設備。この充電インフラを考える時、大きく2つの要素があります。
一つは公共充電ステーションのような公共設備という側面。もう一つは、マンションなど集合自宅の駐車場や、企業・商業ビルの駐車場のようなプライベートもしくはセミ・プライベートの充電設備というものです。
今回は、この後者にあたる集合自宅や企業・商業ビルの充電設備について、欧州ではEPBDという規制の中で検討がされているため、最新の動向を含めて解説していきたいと思います。

欧州EPBDとは?

欧州EPBDとは、正式名称 ”EU Energy Performance of Buildings Directive”といって、日本語では「建物のエネルギー性能指令」と訳される事が多いです。
2010年に成立・施行されたこの法規は、2018年に改正され、いわゆる建物の省エネ対策を規定する内容が盛り込まれており、イメージ的には、各国建築基準法の中の省エネ基準にこの内容が参照されるというものです。
現在は、Directive(指令)のため、EU全域で統一した法的拘束力はなく、EU加盟国政府が自国の国内法に落とし込んで措置を講ずるといった運用になっていますが、まさにこれが現在、改正作業の真っ最中となっているのです。
欧州委員会は、来月(2021年12月)にもこの改正提案を提出するとされており、EPBDがEV普及に欠かせない建物内のEVチャージングスポット(充電設備)の要件を規定できる唯一の法規なため、今回どのような改正案が出てくるのか、自動車メーカー、充電設備メーカー、電力プロバイダーなど各ステークホルダーが非常に注目しているという事なのです。

産業界からの要望内容を解説

先週11/18、欧州自動車工業会(ACEA)と欧州環境NGO(T&E)は、共同でこのEPBDに対する要望書を欧州委員会トップのフォン デ アライエン委員長を筆頭に、欧州Green Dealを担当するティマーマンス上席副委員長以下、関係省庁のトップ宛てに書簡を提出しました。
(PDFで表示)

主な要求事項をまとめると以下の通り。

  • BEV/PHEVを購入もしくは、リースした全てユーザーに対して、充電設備の設置ができる権利を加盟国レベルで法的に保証する事
  • それらユーザーからの設置要求に対して、加盟国は、3ヵ月以内に許可を出さなければならない(e-モビリティの移行を促進するため各国内法改善)
  • 新築および既存の住宅・非住宅の建物における駐車場のpre-cabling化(充電設備を設置し易くするため、ある程度電気配線系統を駐車場にも敷いておく事だと思います)に関わる最低要件を規定

非住宅用建物:

  • 2025年まで:既存建物の10%がEVチャージできるケーブルを保持する事
  • 2025年以降新築または大規模改修工事を実質する建物は、EVチャージできるケーブルを保持する事
  • 2030年まで既存の建物の30%がEVチャージできるケーブルを保持する事
  • 2035年まで全ての建物(新築・既存問わず)においてEVチャージできるケーブルを保持する事

住宅用建物:

  • 2025年以降新築または大規模改修工事を実質する建物の全ての駐車スペースに対して、pre-cabling化する事
  • 2035年以降5台以上の駐車スペースをもつ既存建物の全ての駐車スペースに対して、pre-cabling化する事(2030年の中間目標として30%)
  • また、全ての設備がスマートチャージング可能な仕様とし、十分なグリッド電力を確保する事

10台以上の駐車スペースを持つ建物(住宅、非住宅とも)には、充電設備の最低設置数(割合)を設定

  • 2025年まで:5%(最低1基)
  • 2027年まで:10%(最低2基)
  • 2030年まで:15%(最低3基)

トラックやバンのための民間デポや物流ハブでの充電設備要件もEPBD内で規定とすべき

  • 特に夜間充電や荷物の積み下ろし時に充電ができるよう考慮

家庭や職場、商業施設から物流施設まで、あらゆる充電設備の設置に対する投資を促進し支援するため、Invest EUなどのファンド資金源を活用すべき

UKでも同じような規制を検討中

また、ちょうど本日、UKのボリス・ジョンソン首相は演説の中で、新築の住宅や商業施設などの建物にBEVの充電スタンドの設置を義務付ける方針を表明
年内にも規制案策定後、年明け22年から施行を目指し、毎年14.5万基のペースで充電設備を増やしていく計画との事。
(既に多くのニュースサイトで報道されています。こちら

最後にまとめ

以上のように、実際、EVの充電においては、その90%以上が住宅や職場等の施設内で実施されている事から、EPBDでの改正内容が非常に今後のEV普及を占う意味でも重要になってきており、当然、欧州の法規を日本も参考にしてくるため、注目が高いのです。
また、欧州では同時並行的に議論が進んでいる自動車CO2規制の方で、2035年には100%ゼロエミッションカー(BEV/FCEVのみ販売可能)にするといった提案が欧州委員会から出ていることから(参考記事:【解説】欧州自動車CO2規制の修正案におけるefuel(再生可能燃料)の扱い)当然、この目標に沿ったインフラを設けなければ、いくら自動車メーカーがEVを世に出しても、ユーザーにとって使い勝手が悪ければ計画は破綻します。

果たして、欧州委員会はどこまで野心的な改訂案を出してくるのか、、引き続き動向をウォッチし、また進捗をレポートしたいと思います。

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