今日は、欧州の中でも特に北欧諸国がなぜ、突出して自動車の電動化率(全体の販売台数のうち、BEV/PHEVが占める割合)が高いのかを解説・考察していきたいと思います。
BEV/PHEVの定義
※BEV: Battery-EVの略(いわゆるテスラ、日産リーフのような100%EV走行車)
※PHEV:Plug-in hybrid EVの略(プラグインハイブリッド車)
結論
先ず結論から申し上げると、以下の点が上げられます。
- もともと北欧諸国は、水力発電、風力発電などの再エネ電力の比率大。
- 政府の補助金・税制面でのインセンティブなどの手厚い保護。
- 国民の皆さんの環境意識がもともと高い。
- カンパニーカーを含め、一家に車2台以上の家庭も多く、そのうち1台はBEV/PHEVに置き換えられる可能性大。
- ガソリン/ディーゼル車の販売禁止策と都市部での使用禁止策
- 多種多様なBEV/PHEVのラインナップの多さ
北欧諸国の驚異的な電動化率
先日のブログ記事(【最新】欧州自動車:電動化率とCO2規制の達成状況(2021年上半期終了時点))でも解説した通り、
直近6カ月(21年1月~6月)における欧州各国ベースの新車販売台数のうち、BEV/PHEV比率が高いのは、
ノルウェー(83%、うち2/3がBEV)を筆頭に、アイスランド(48%)、スウェーデン(40%)、フィンランド(28%)、デンマーク(27%)と北欧勢が独占しています。(※下記グラフ上は、アイスランドとフィンランドは省略されています)
欧州の全体平均が16%であるのに対して、この数字…。すごいですよね?(※日本はまだ1~2%程度)
この背景にあるものを順次考察していきたいと思います。
北欧諸国の電源構成(脅威の再エネ率)
北欧諸国は、水力発電(特にノルウェーの電源構成の9割以上が水力)や、北海、バルト海における洋上風力発電による再エネ率が非常に高いのです。
よって、ガソリンなどの化石燃料を燃やして走行する内燃機関車両(ガソリン/ディーゼル車)に乗るというより、これらの潤沢な再エネ電源をBEV/PHEVに使うという意識が当然高くなります。
下記のグラフをご覧頂くと分かるようにアイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなどは、青の水力が非常に多い事が分かりますし、デンマークは、風力が多いです。(リンクはこちら)
従って、これら水力・風力で生んだ再エネを有効に使用するため、当然、政府側としても利用促進に向けた政策、例えば、EV/PHEVの購入する際の補助金を出したり、税制面の優遇措置(購入時、使用時)を実施しています。
また、EV/PHEVを使用する上で欠かせない充電インフラ網の整備も政策として、強力に推し進めるわけで、使用者の一番の不安材料でもある充電スポットの普及も目に見える形で解消していっているのです。
カンパニーカーの文化
欧州では日本と違って、多くの人がクルマで通勤します。
この際、会社側からリース車を貸与されて使用するケース(いわゆるカンパニーカーの使用)が多くあります。
従って、例えばこれまで普通のガソリン/ディーゼル車をリース車として乗っていた人が、そのリース期間が終了し、次のクルマを選定する際、会社側から、次はBEV/PHEVを指定されるのです。
もちろん、会社側もこの脱炭素社会に貢献しなければなりませんし、何より、税制面の優遇があるため経費削減にもなるのです。
車両リース費用のみならず、使用時に使う電力費用なども、通常のガソリン代を支払うよりもお得という事です。
また、リース車を持っていない家族であっても、一家に2台以上クルマを所有する家庭は多いです。
よって、例えば、普段の通勤用途や、子供の送り迎え用途など、近距離用にはBEV/PHEVに置き換え、週末、家族で出かける、夏のバカンスで1000キロ以上の遠くへ移動するなどの用途は、通常のガソリン/ディーゼル、もしくは日本メーカーが得意とするプリウスのようなハイブリッド車を保有するのです。
このように、特に2台持ち以上の家庭は、そのうち一台は、BEV/PHEVに置き換えるため、販売台数に占める割合が増えているという事です。
(少し蛇足ですが、もともと北欧諸国の販売台数は、欧州主要国の独、仏、英、伊、西と比べるとかなり低い水準ですから、少しでもBEV/PHEVが売れると比率上は相対的に高くなる裏事情もありますが、、…。)
ガソリン/ディーゼル車の販売禁止と大都市部での使用禁止策
もう一つ大きいのが、なんといってもガソリン/ディーゼル車の販売禁止措置と主要都市部への乗り入れ禁止策になります。
下記の図は、欧州各国がアナウンスしている、ガソリン/ディーゼル車の販売禁止措置になります。
ノルウェーは最速の2025年を宣言し、(なんと!!もうあと、3年半を切っているんですね……。)軒並み、北欧勢は2030年を目途にガソリン車の販売を停止します。
(リンクはこちら)
また、欧州の主要都市における、ガソリン/ディーゼル車の使用禁止策もあります。
下記グラフをご覧頂くと分かるように、北欧諸国のみならず、欧州全域で主要都市の使用禁止措置がアナウンスされています。
中でも有名なのが、パリ中心部における2024年までのディーゼル車の使用禁止策です。2024年のパリオリンピックを見据えて宣言したこの施策ですが、多くの大規模都市が同じような施策を発表しています。
この他にも、Low-Emission-Zone, Zero-Emission-Zoneといった、本当に街の中心部に当たる特定のゾーンを指定して、その範囲内にはBEVもしくはPHEVのみ走行が許さるというものもあります。
有名なのは、
- ロンドン:
2030年までにICE(内燃機関車)の中心地への乗り入れ禁止を発表しています。さらにオックスフォードでは2021年8月から、中心地の6つのストリートをゼロ・エミッション・ゾーン(ZEZ)に指定してICEを乗り入れ禁止にすることを発表
-
アムステルダム:
2020年から、2005年以前に作られたディーゼル車の市内への通行禁止が始まり、2030年までにPHEVを含むすべての非ゼロ・エミッション車両が市内に入れなくなります
-
オスロ:
2023年から、オスロ市内のRing3内の範囲には、HEV/PHEVを含むガソリン/ディーゼル車の乗り入れが禁止
すなわち、これが意味するところは、対象地域外に住んでいても、勤務先が対象地域(ゼロエミッションゾーン)の場合、通勤に使うクルマは自ずとBEVになるという事です。今後この動きは更に加速していく事が確実視されています。
BEV/PHEVの豊富なラインナップ
最後になりますが、欧州では日本では馴染みのないBEV/PHEVの豊富なラインナップがあります。
下記グラフは、21年1~6月のBEV/PHEVの販売トップ20のランキングです。
濃い青がBEV、薄い青がPHEVです。(リンクはこちら)
ご覧の通り、多くの車種が既に販売されており、テスラだけではなく、VWはもちろんですが、フランス系のRenault、Peugeotだったり、イタリア系のFiat、韓国系のHyundai/Kiaなどがあります。
日系では日産リーフがぎりぎり19位にランクインしていますが、今後の日本メーカーの巻き返しがあるのか注目したいところです。
今後もこのような解説・考察をレポートしたいと思います。
有難うございました。
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