【最新】VWはなぜ厳しいCO2規制に前向きなのか? (VWが見据える戦略とは?)

Electrification

こんにちは。ヌマッチです。

欧州自動車CO2規制の2020年基準達成に向けて各社がラストスパート

最近、何かと話題となっている欧州自動車CO2規制ですが、当初、調査会社の試算(下記グラフ参照)では、多くの自動車メーカーが2021年の規制値(1㎞走行辺り平均95g-CO2以下)を達成出来ないとして、多額の罰金が想定されていました。
中でもVW(フォルクスワーゲン)が最も多い45億€(日本円にして約5,500億円)の罰金が想定されており(CO2換算で約13gの未達)、マスコミ等で大きく取り上げられていました。


【資料】日経新聞より引用

基準達成に向けて余裕を見せ始めたVW

しかしここ最近、海外のメディア等で、VWのCEO(Herbert Diess氏)が、”EV投入効果により、2021年は問題なく達成できる見込みであり、さらに、コロナの影響で同社待望のEV「ID.3」の市場投入が9月に遅れたにも関わらず、2020年の規制値に対しても、達成まであと1g程度まで迫ってきている。”
との発言がマスコミのインタビューによって報道されています。

本年9月に欧州委員会が発表した、2030年における欧州全体における温室効果ガス(GHG)削減目標を当初の90年比-40%から-55%に引き上げる目標を提案した際も、
軒並み産業界は「経済的ダメージを引き起こし、欧州における競争力を損なう可能性が大きい。」などの声明を出す中で、

VWのCEOは「原則として、厳しい目標を達成することは可能だが、より迅速で持続可能な転換のために幅広い社会的コンセンサスが必須。」と
VW個社のスタンスとして前向きな表現を多用している状況があります。

下記の表は、2020年の上半期(1-6月の販売実績)の最新データを基にした、各社の2020年CO2基準達成状況を表した図です。

【資料】 環境NGOのT&Eが発表したグラフ(ベースデータはJATOより算出)

ご覧の通り、VWは、まだ他社と比べてゴール地点までまだギャップがあり、上位8メーカーは既に達成済かほぼ達成見込みの状態である事が分かります。

2020年のCO2計算には、正確に言うと、いくつかの特別ボーナスが設定されており、簡単に言うと以下2点のボーナスが設定されているのです。

  • 1年間に販売した車両のうち、CO2値が悪いワースト5%の車両は計算から除外してよい。(要するに、全体の95%の車両が計算の対象
  • 走行時のCO2がゼロのEVや、50g以下のPHEVなどは、2倍カウントが可能。(実際は1台のEV販売に対し、2台売ったと見なせるボーナス

このように、EV/PHEVを世に出し、特別ボーナスをうまく活用しながら、またEV/PHEVに対するコロナ補助金の恩恵も受けてながら、各社は基準達成、もしくは出来る限りの罰金を抑えるよう日々闘っているわけです。

上記の表から分かる事は、20年上半期の実績ベースでは、以下という事です。

  • PSA/Volvo/FCA-Tesla/BMWが規制達成
  • Renault/Toyota-Mazda/Nissan/Fordがほぼ達成見込み
  • Kia/VW/Hyundai/Daimler/JLRが未達の状況

VWはこの時点で5g未達だが、9月に導入された電気自動車”ID.3”でこの差が大幅に埋まり、かつ、同社の中国合弁パートナーであるSAIC(上海汽車)が所有するMGとプーリング契約(CO2排出クレジットの融通同盟)を結び、上述の通り規制値まで残り1gレベルまで来ていると推測できます。

また、VWは、今後のEV戦略として25年までに世界販売の2割(約300万台)、29年までに合計75車種のEVを投入し、2600万台のEV販売を目指す計画を発表しており、トヨタのように全方位的な戦略(少なくても現時点は)とは違い、完全なる電動化・EVシフトを宣言している構図と言えるでしょう。

これまでガソリン・ディーゼル車で取引のあるサプライヤーも相当数いるなか、またガソリン・ディーゼル車の既存製造ラインなど、多くの生産設備を抱える状況にあっては、普通であればもっと内燃機関車両の存続・延命を訴えると想定されますが、何故、ここまでVWは急速なEVシフトに舵取りが出来るのでしょうか?その背景とは何でしょうか?

他社にはない、VWの優位性とは?

【結論】:VWは電力事業ビジネスをもともと持っており、他社にはない電力事業者としてのノウハウを多く有しているのです!!

VWはもともと、自社工場で使用する電力を自前で発電するなど電力事業部門をもっていた事から、電力事業への参入が他社より有利なのです。

VWは、2019年、新設するグループ会社「Elli Group」を通じて、電力販売事業およびEV向け充電関連事業を本格的に開始すると発表しました。
ここをもう少し深掘りすると、以下3点がポイントになってきます。

  • Elli Groupが販売する電力は太陽光・風力からの再生可能エネルギーであるとう事
  • 車両製造時の電力もこのElli電力を使用するという事。
  • VW製のEVをご購入頂いたお客様の自宅にこのElli電力を供給し、車両使用時の電力も完全脱炭素を実現するコンセプトだという事。

ここで一番重要な事は、
再生可能エネルギーによる電力事業に自動車メーカーが参入する事で、CO2の計算手法として、今後本格的に導入されるといわれているWell To Wheel (WtW:いわゆる燃料資源の採掘から、車が走るところまでのCO2消費を合計して評価する手法)や、Lifecycle-Assessment(LCA:原材料の採取から、材料の加工/製造/流通、製品の使用/メンテナンスを経て、最終的に廃棄/リサイクルするまでのトータルCO2で評価する手法)の観点で他社と圧倒的な優位性を獲得する事になるという事なのです。
ここが、VWが完全なるEVシフトに舵取りできる所以なのです。

加速する再生可能エネルギーの争奪戦

実は、この再生可能エネルギーを活用してビジネスモデル構築は、VWだけではなく既に世界的な潮流となっているのです!!

今や再生可能エネルギー事業買取り制度(PPA:Power Purchase Agreement)がグローバルで活発化しており、企業の重要指標であるESG(「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉。近年では、この三つの観点から企業を分析して投資する「ESG投資」が注目されている)の観点からも注目を集めているのです。

実はこのPPAを近年急速に推し進めているのが “GAFAM” (Google/Amazon/Facebook/Apple/Microsoft)なのです。

アメリカの広大な農地を太陽光発電にした事業者から電力を買ったりカナダの広大な風力発電と契約して電力を買取るなど、彼らは、データサーバーの電力消費が膨大で、その対処としてこのような動きになっているという事です。

今後、このような動きは一層加速し、
例えば、後継者がいない農家などが、その土地を売って、再生可能エネルギー事業が立ち上がり、そこから生まれる電力を企業が買い取るなど益々増えて行くでしょう。
VWは、電力を生産・買い取るだけではなく、その電力を欧州全域に張り巡らされている送電線を使って、該当するお客様にお届けする事ができる
ここに優位性があると言えるでしょう。

加熱する電力争奪戦の行方に目が離せません。

それではまた。皆さま良い週末を!

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