【重要】次世代燃料e-fuelが脱ガソリン議論に待ったをかけるのか!!?

Climate neutrality

最近、何かと話題になっているカーボンニュートラル達成のためのガソリン車の新車販売禁止議論ですが、先日、日本自動車工業会の豊田会長が「電動化=EV化」という誤った認識は正すべき、「国のエネルギー政策に手を打たないと自動車業界のビジネスモデルが崩壊する」とのコメントをマスコミ向けのオンライン懇談会で発言された事は記憶に新しいところです。
端的に言えば、急速な電動化は、日本でも一番裾野が広いと言われている自動車関連企業で働く多くの雇用者を危機に晒し、ピラミッド型のサプライチェーンで保たれてきた自動車のビジネスモデルを崩壊させる可能性が高いという懸念を表明したという認識です。

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、EV化は避けて通れない道ですが、豊田会長が描く、既存の雇用を守りつつ適切なスピードでの電動化とともに2050年目標を達成するにはどのようなオプションが想定されるのか
この記事では、その一つの候補とされている、カーボンニュートラル燃料(e-fuel)の実現可能性について深堀りしたいと思います。

なお、欧州におけるe-fuelの扱いという事で最近記事をアップしておりますので是非こちらもご覧下さい。(参考記事:【解説】欧州自動車CO2規制の修正案におけるefuel(再生可能燃料)の扱い)

e-fuelとは?

定義

e-fuelとは簡単に言うと、以下の定義となります。

  • 太陽光や風力など再生可能エネルギーの余剰電力で水を分解して取得した水素をCO2と反応させて合成燃料(カーボンニュートラル燃料)にした燃料の事を言います。
  • また、e-fuelの語源は、ドイツ語の「Erneuerbarer Strom=再生可能エネルギーで発電した電気」の頭文字のEを取って、e-fuelと名付けられているとも言われおり、海外ではsynthetic fuels(合成燃料)と言われる事もあります。

水素には太陽光や風力などの再エネ電力から作る「グリーン水素」と、石炭や石油などの化石燃料から作る「ブルー水素」の2種類存在し、ブルー水素をカーボンニュートラル燃料として使うためには、水素製造の段階で出るCO2を、CCUS技術を使ってCO2を回収・貯留・再利用しなければなりません。
一般的に「e-fuel」の定義は、化石燃料由来ではなく、100%再エネ電力により生成する合成燃料を事を言います。

精製工程

下記のイラストをご覧ください。

【資料】JPEC作成資料より引用

風力で得た電力で水から水素を取り出し、製油所等から回収したCO2と合成して燃料にしているルートが良く分かると思います。
逆に言うと、かなりの手間とコストをかけている事が分かります。

端的に言えば、再エネ電力をそのまま家庭やEVに使った方が効率が良く、水素もFCV(燃料電池車)や家庭・産業用途にそのまま使用した方が単純に手間も少なく効率が良い事はイメージし易いかと思います。

従って、最初のe-fuel定義でも触れた通り、再エネの”余剰電力で生成した”という部分がポイントとなり、あくまでも太陽光や風力をそのまま電力として使い切れずに余った電力を有効活用する最終手段の使い道という事です。
この生成工程から分かる通り、当然コストも高く、現時点でガソリンを精製するコストと比べ約10倍のコストがかかると言われているのです。
イラスト内にもあります通り、最終的な用途は、自動車、トラック、飛行機など輸送機器への将来燃料(カーボンニュートラル燃料)として期待されています。

先行するヨーロッパの対応状況は?

自動車業界の対応状況

e-fuelは、もともとドイツを中心に研究開発が進められてきており、自動車メーカーで言うと特にフォルクスワーゲン(VW)グループで盛んに研究がされておりました。

ドイツでRenewable燃料の使用義務化に関する法案が可決(2021年2月11日記事参照

【VWグループ】
2020年9月、VWグループであるポルシェは、e-fuelの開発に注力する方針を発表しました。開発担当取締役は理由として、以下を挙げております。

  • 自動車業界では当面、内燃エンジン車が主流であり続ける見通しであるほか、既存の保有車でも持続可能性を確保できる
  • また、手間をかけてe-fuelを生産するよりも、再生可能エネルギーを直接、電気自動車に充電したほうが効率がよいという認識はあるものの、再生可能エネルギーの余剰電力を利用できれば持続可能性はさらに高まると認識

と説明しており、現在、提携先を探している状況で、パイロットプラント建設、商用化に向けた実証実験など実施していく方針のようです。果たして今後の実現可能性があるのか見物です。

【ドイツ自動車メーカー団体(VDA)】
また、ドイツの自動車メーカーの団体であるVDAもe-fuelに対しては主に以下のようなスタンスを表明しています。(パブコメへの回答

  • 2050年のカーボンニュートラル目標を達成するため、代替燃料(水素やe-Fuel)の活用は重要なオプションの一つ。インフラ整備とともに大規模な準備が必要。
  • 既存の使用過程車への応用可能性もあるため、目標達成に向けて大きなポテンシャルがある。そのため燃料規格などを規制している欧州再生エネルギー指令などの改訂も含めて、燃料インフラ、保管などの法的整備が必要。

【欧州自動車工業会(ACEA)】

  • Renewable燃料、低炭素燃料(Low-carbon Fuel)への税制上のインセンティブ付与、法的枠組み整理による使い勝手向上を主張 (E-fuelという言葉は使ってなく、あくまでもhigher renewable content in fuelsという書きぶり)
  • drop-in synthetic fuelsなどの新燃料技術は、2030年までに全燃料シェアの5%程度をターゲットとすべき

欧州委員会(行政側)の対応状況

2020年7月に欧州水素戦略およびエネルギーシステム統合戦略を発表。

  • エネルギーシステム統合戦略の中で、電動化が困難な分野については、再生可能な水素や持続可能なバイオ燃料、バイオガスなどのクリーン燃料が推進されるとし、再生可能な低炭素燃料の新たな分類・認証制度の必要性が認識されている。
  • また、再生可能エネルギー指令(REDⅡ)の改訂も現在作業中。

欧州燃料業界の動き

【Fuel Europe】
2020年6月、カーボンニュートラルな液体燃料の開発に取り組むことを発表。(欧州自動車メーカーが支援し、石油会社が実際の製造を担う構想)
2020年11月、自動車CO2規制案に対するパブコメへの返答として以下をコメント

  • 自動車OEMがCO2基準の準拠を決定する際、renewable & low-carbon fuelの潜在的ポテンシャルを考慮に入れた政策にするべき。
  • またそれら燃料の使用促進をするためのクレジットスキームなど、新しいメカニズムを規制に入れていくべき。

まとめ:自動車へのe-fuel活用の実現性(考察・課題)

以上のように欧州における動向も見てきましたが、全体を整理すると以下に集約されるのではないでしょうか。

  • 課題は既存ガソリンと比べ10倍の精製コストと法的枠組みの整備
  • 自動車への活用という観点では、現状、再生可能エネルギーで作った電気をそのままEVに使用、もしくは、再エネで生成した水素をFCVに使用が効率的にもコスト的にも現実的
  • 一方、パワーの必要な大型トラックやバスへの応用は乗用車よりも可能性あり。(仮に乗用車であっても、電池容量が少ない小型大衆車はEV、上記ポルシェの例のように高級車はe-fuelの可能性も)
  • しかしながら、基本的には、自動車セクターよりも航空機、船舶など重量輸送機器へのE-fuel使用が現実的
  • また、100%再エネで作ったE-fuelと、ある程度既存の燃料(自動車で言えば、ガソリン/ディーゼル燃料)にe-fuel燃料を混合、もしくは、化石燃料由来のエネルギーで生成した燃料をLow-carbon Fuel(低炭素燃料)として使用していくなど、段階的移行の絵姿も見える。
  • 総じて、産業界側のスタンスは、2030年を第1ステップとしてLow-carbon燃料、2050年を見据えた第2ステップとしてe-fuelの活用、普及、法的整備を主張している状況。

注目すべきポイントは、特に乗用車の世界で完全なるe-fuelへの移行は厳しいとしても、既存のガソリン燃料などに、e-fuelまたは、Low-carbon燃料を何割か混合して使用できる世界が来るのか、もしそれが可能であれば、冒頭で触れた豊田会長が懸念する、早急な電動化をやや緩やかにする事ができ、雇用を守り、自動車のビジネスモデルを維持しながら、お客様への要求にも応えつつ電動化へのシフトを可能にする事が可能かもしれません。

色々な既得権益、利害が複雑に絡み合っている案件でもあり、かつ、グローバルで急速に進む電動化を背景に日本の国際競争力を維持発展していかなければ日本の自動車メーカーの未来はなく、重要な舵取りを迫られている事は間違いありません。
残された時間は、限りなくゼロに近づいているように思われます。

最後に2030年~2050年を見据えた各輸送機器別の今後想定される燃料種/実装可能性を以下掲載いたします。
あくまでも筆者個人のイメージですので、参考まで捉えて頂ければ幸いです。

【資料】筆者作成(個人的イメージ)

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