2022年6月8日、欧州議会は本会議(Plenary:プレナリー)を開き、昨年7/14に欧州委員会から発表された「欧州自動車CO2規制の改訂案」に対する投票・採択を実施し、当初想定されていた非常に厳しいCO2削減目標も最終的には現実路線へと着地した。
審議の舞台は今後、欧州議会、欧州理事会、欧州委員会との3者協議(Trialogue:トライアログ)の場に移るが、最終的な落しどころをにらむ上で重要となってくる欧州議会のポジションが今回確定したため、その内容について徹底解説するとともに、何故、欧州議会がこの最終局面になって現実路線へと切り替わったのかについても最後触れたい。
- 1. 議会審議のこれまでの流れ
- 2. 欧州議会・本会議(プレナリー)の採択内容
- 3. 議会議員のマインドが現実路線に切り替わった理由
- 4. 今後のスケジュール
1. 議会審議のこれまでの流れ
欧州議会審議におけるこれまでの流れは、是非前回の記事(※下記)をご覧頂きたいのですが、先月5/11、本法規(欧州自動車CO2規制)のリードcommitteeである環境委員会の採択結果を受けて、最終的な議会審議・採択を行うため、プレナリーという議会本会議をフランスのストラスブールで開き議員750名による投票が行われました。
投票を前に、環境委員会が採択した案に対する改訂提案(Amendment)が49個提出され、これらも含めて票が投じられました。
この改訂提案には、2035年のCO2削減目標値を-100% → ‐90%に下げるべき、2030年目標値をもっと上げるべき(‐55% → -60%)、2025年は欧州委員会提案レベルにするべき(‐20% → -15%)といった提案や、E-fuelの使用に対するクレジットスキームの導入など様々ありました。
2. 欧州議会・本会議(プレナリー)の採択結果
それでは早速、プレナリーでの採択内容を見ていきましょう。
採択(Adopt)された各Amendmentはこちらから確認する事ができます。
各項目の比較をサマリーにしました。
(PDFで表示)
- 1.CO2削減ターゲット
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2025年:乗用車も-15%(環境委員会案の-20%から緩和)
2027年:中間目標削除
2030年:欧州委案(‐55%/-50%)を支持
2035年:欧州委案(‐100%)を支持
つまり、全て欧州委員会提案を踏襲する形で決着。
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2030年以降廃止(欧州委案を踏襲)
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2025年以降のプログレスレポートを通じて、当該代替燃料のCN(carbon neutral)貢献度を再評価
クレジットメカニズム導入は否決
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2023年末までにEU市場における車両のライフサイクルCO2評価手法(LCA手法)を規定したレポートを公開(Publish)
2024年以降:ボランタリーベースでデータ提供
2028年以降:データ報告の義務化
ちなみに、採択されたLCA部分の原文はこちら。
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上限キャップについて、現行7gを2024年まで維持し、2025年5g、2027年4g、2034年迄2gに段階的に縮小(環境委委員会案を踏襲)
- 少量生産メーカー(乗用車年間販売台数:1000~10,000台)の免除規定:2036年以降廃止(当初の2030年から6年延長:唯一の緩和項目)
- 中間レビュー:2027年に実施(2028年から1年前倒し)
- OBFCM:車載燃料消費計から得られるリアル環境データを使用した法規見直しを2025年までに実施
- タクシーなど公共交通および社用車のZEV化を推進する法案を2023年2月末まで提出
3. 議会議員のマインドが現実路線に切り替わった理由
今回のプレナリー採択結果の中でも特筆すべきは、やはり、当初かなり野心的な(つまり環境寄りの)意見・スタンスを占めていた欧州議会ですが、結果的にはほとんどが欧州委員会提案に落ち着いた事でしょう。
この背景には何かあるのか??
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ロシア-ウクライナ問題から影響している資源価格高騰、エネルギー供給に関わるロシアからの輸入依存度の低減をする必要があるなど、このようような状況から過度なグリーン政策はかえって国民の足かせとなるという世論や欧州議員のマインド変化があり、環境一辺倒(電動化一辺倒)であったこれまでとはやや現実路線(つまりEVだけに固執すれば今回のように何か不測の事態に陥った時に困る事)となり、足元を見た投票結果になったとも言えるでしょう。
4. 今後のスケジュール
今回、議会側のポジションがこれで決定致しました。次はEU27ヵ国の加盟国政府の集まりである欧州理事会のポジション(General approachと呼びます)を決める番となります。
この欧州理事会ポジションを決める会議が既に6/28に設定されており、現理事会議長国のフランスはこの6月末で議長としての任期が終了する事から、何としても結果を出したいため、特に主要国との事前調整を現在しているものと推測されます。
特に、2035年-100%を踏襲するのか、E-fuelなど代替燃料の使用余地を残すのかに注目が集まります。(それ以外は、概ね今回のプレナリーと同じスタンスと予測します)
- 今後の想定スケジュールは以下
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6/28:欧州理事会・環境閣僚会議にて、理事会ポジション(General approach)が採択・合意
9月以降:議会/理事会/欧州委員会による3者協議スタート
年末迄:最終合意
23年第1四半期:官報発効
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