【欧州自動車CO2規制】全自動車メーカーが2021年CO2排出基準を達成へ

EU CO2 standard (cars/vans)

今回は、ICCT(国際クリーン輸送協議会)が欧州自動車CO2規制における2021年基準を全社達成する見込みであるというレポートを発表しましたので、その中身について深堀していきます。

✔本記事のもくじ

  • 1.欧州:2021年新車販売動向
  • 2.2021年CO2基準値を全メーカー達成へ
  • 3.小型商用バンは苦戦(大きな罰金になる可能性も)

1.欧州:2021年の新車販売動向


【出典】ACEA資料より

まず、昨年2021年の欧州新車販売がどうだったのか見ていきましょう。

結論:前年比‐2.4%の970万台

当初は、コロナで大打撃を喰らった2020年の990万台よりは増えると予想されていました。

上記のグラフは、2020年(紺)と2021年(水色)の月別販売台数の推移ですが、ご覧の通り、春先3月から6月までは順調に前年を上回る水準でした。

しかし、7月以降、欧州でも再びコロナの猛威が襲い、かつ、半導体不足のダブルパンチもあり、販売台数は伸び悩み、7月から12月まで6か月連続の前年割れで終了しました。

結果、970万台という水準になった訳ですが、これは、コロナ前の2019年(1300万台)と比べると、‐25%の水準であり、実に全体の4分1が消滅しているわけで、巨大なサプライチェーンを抱える自動車業界にとっては、脱炭素という大きな流れの中、雇用面、ビジネス面、社会面などあらゆる角度から今後の生き残りをかけた経営戦略の立て直しに迫られていると言えます。

ちなみに、欧州自動車工業会(ACEA)は、2022年の販売予測
約8%増の1050万台としています。

 

✔国別・メーカー別でのポイントは以下のとおり。

  • 欧州最大市場のドイツが-10%(東西ドイツ統合後最低)を記録
  • フランス、イタリア、スペイン、UKは辛うじて前年割れは回避
  • シェアを最も伸ばしたのはHyundai(台数ベースでは18.4%増)
  • トヨタもHyundaiに次いで健闘し前年比約9%増を確保

 

2021年 欧州電動車比率(BEV+PHEV)は18%に到達


【出典】ACEA資料より

上記のグラフは、2021年の燃料別の販売台数をシェア別に表したものです。これを見ると、

BEV(いわゆるEV)が9.1%、PHEV(プラグインハイブリッド)が8.9%で両者を合わせたいわゆる電動車比率は18%に到達しました。

これってすごくないですか?
自動車に対する環境がいくら違うと言っても日本はまだ1~2%レベルなんです。

2021年の4半期ベースで見ると、欧州での電動車比率は、
Q1:14%、Q2:16%、Q3:19%、Q4:24.5%と順調に伸び、足元では既に4台に1台がBEVもしくはPHEVが購入されているという事です。

一方で、ガソリン車が40%、ディーゼル車に至っては20%をついに割るなど、いわゆるピュアな内燃機関車両の落ち込みが激しい事が分かります。

 

2.2021年CO2基準値を全メーカー達成へ

さて、ここまで2021年の販売動向を見てきた訳ですが、果たして自動車メーカー各社は世界で最も厳しいとされる欧州CO2基準値をクリアできたのか、、気になるところです。

ICCTは2/7、自社の推計に基づく自動車メーカー各社の2021年基準達成状況を発表しました。

結論:全社基準値をクリア

✔主なポイントは以下の通り。

上記の表を見ると分かるように、

  • 全社平均118gの目標値に対し114gと平均4gの可達
  • 一番ボリュームの多いVW groupも約1g可達
  • 当然ながらTesla-Honda-JLRが78g可達と抜けていますが、Volvo、BMW、Mercedes-Benzも可達度合が高い事が分かる

なお、ICCTの説明では、各社の車両平均重量を2020年値で仮置きしていること、エコイノベーション(オフサイクルにおけるCO2低減に寄与する技術の導入に関わるインセンティブ)の2021年採用実績は無視した試算となっているため、実際には、更に可達度合が高まる可能性ありとしています。
【エコイノベーションの参考記事はこちらから】

 

VW:自社のホームページで基準達成をリリース

VWは自社の試算から割り出した2021年CO2排出量が、基準値である120.8gを2%下回り、118.5gになったと発表したのです。

欧州委員会からの正式なデータ(暫定値が22年夏頃の見込み)が出て来る前から、ここまで大々的にホームページで発表するのは珍しく、ある種の株価対策ともいえるものだと思いますが、2021年が締まった年明け早々にこのようなリリースをするのはちょっと驚きです。(ただ、この流れが業界全体で流行るかもしれませんね、、)

✔VWが主張しているポイントは以下。

  • BEV+PHEVの販売台数が、2020年のから約64%増加し、47.2万台を販売
  • 新車販売に占める電動車率(BEV+PHEV)も20年10%から17%に増加
  • 電動車投入の恩恵から、CO2排出量は前年比-2%の118.5g/㎞となり、2021年CO2規制値を達成
  • 今後も一貫して電動化を推進し、新車販売に占めるBEV比率を2030年までに60%とする計画を実行

✔ただし、ここには裏があるのをご存じでしょうか?
このリリースには触れられていないのですが、当然VWもID3,ID4といったEVを去年市場にたくさん出しましたが、中国のEVメーカー(NIO、広州小鵬汽車(ZHAOQING XIAOPENG)、浙江吉利(Zhejiang Geely)とPoolingを組んでおり、それら中国EVメーカーにEVを欧州へ持って来させ販売した分のCO2クレジットをVWを購入しつつ、基準を達成しているのです。
あまりこの件はニュースになっていませんが、実はそのような裏事情もあるのです。

ちなみに、VWが組織しているPoolingは以下の通りです。
もともとVWは中国メーカーのSAIC(上海汽車)などとPoolingを組んでいましたが、昨年12月、(このままではCO2基準を達成できないと判断し)このEVメーカー3社も急遽組み入れてCO2基準を達成した背景があるのです。

 

3.小型商用バンは苦戦(大きな罰金になる可能性も)


欧州自動車CO2規制の対象は、M1車両と呼ばれるいわゆる乗用車と、N1車両と呼ばれる小型商用車バンにもこの規制が掛かります。

M1/N1では規制値も異なる(N1の方がCO2排出量が多い)のですが、上記ICCTの試算では、全社基準を未達という試算となっています。

主なポイントは、

  • 最もボリュームの多いStellantisが1g未達と最も目標値に近い位置
  • その他のメーカー(Poolingグループ)は、大きく未達の状況
  • ただし、N1についてもM1同様、各社の平均重量およびエコイノベ次第で実際の最終値は前後するとの事

仮にもしこのままの数字で確定した場合、
例えば、一番未達率の大きい”Renault-Mitsubishi‐Nissan連合”を見ると、12gの未達で2021年の販売台数が約32万台なので罰金額は以下のようになります。
95€×32万台×12g=3.6億€(1€:130円換算で約470億円)の罰金
という事になります。

必ずしもこのままのデータで確定はしないと思いますが、ICCTレポートには欧州委員会からの正式な暫定データ発表が今年(2022年)の中旬と言っているので、このN1のデータにも注目する必要があります。

それではこの辺で。

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