欧州理事会は6/28、環境閣僚会議を実施し、昨年7/14に欧州委員会(EC)から提案された欧州自動車CO2規制の改訂案に対するポジションを審議、採択した。
欧州委員会から提案された2035年以降のガソリン車販売禁止を欧州理事会も承認。先の欧州議会の承認と合わせて、これで3者(欧州委員会、欧州議会、欧州理事会)のポジションが全て一致した形となった。
(参考記事:【最新記事】欧州議会・本会議、2035年ガソリン車販売禁止提案を承認、E-fuelは否決、LCA評価手法を23年に提案へ)
加えて、注目されていた合成燃料(E-fuelなど)を使用した内燃機関車両の2035年以降の販売継続、もしくはこれらの車両を販売したメーカーに対する各社のCO2排出目標値に対するカウント措置(要するに何等かの恩恵措置)の導入については、2026年以降に最評価とする事で決着した。
欧州理事会が深夜2:50にプレスリリースした内容はこちら。
理事会ポジションの詳細であるジェネラルアプローチも6/30に公開された。(こちら)
1. 欧州各国のスタンス
閣僚会議の中でEU各国政府から表明されたスタンスを見ていこう。(実際の映像ビデオはこちらから見る事ができる)
2035年‐100%に対するスタンス
先ず、焦点となっていた2035年‐100%(いわゆるガソリン車販売禁止時期)について各国のスタンスを下記にまとめた。
ご覧の通り、主要国であるドイツ、フランス、スペインは欧州委員会の提案、つまり2035年‐100%を支持する形となったが、ドイツは条件付きの支持であり、あくまでも2035年以降も合成燃料を使用した内燃機関車両の販売が認められる何等かのオプションルールを作る事が前提とした。
主要国の中で唯一反対のスタンスを取ったのはイタリア。
イタリアは本日実施された環境閣僚会議を前にポルトガル、ルーマニア、ブルガリア、スロバキアと組んで5カ国のジョイントステートメントとして-100%の時期を2040年にすべきと訴えていたのだ。
この5カ国のスタンスはステートメントの通り表明されたが、同様のもしくは、EC提案に反対の立場をとった他の国は、来週から次期理事会議長国となるチェコをはじめ、ハンガリー、クロアチア、ポーランドなど予想通り、東欧諸国が続いた。
ただし、理事会全体としての結論は、欧州委員会(EC)提案(2035年‐100%)を踏襲する事で決着。
E-fuel/合成燃料に対するスタンス
次に、E-fuelなどの合成燃料を使用した内燃機関車両の扱いについてまとめると以下の通り。
ここもご覧の通り、ジョイントステートメントを出した5カ国をはじめ、ドイツ、チェコ、クロアチアが合成燃料のもつ脱炭素化へのポテンシャルと、何らかのルールによってCO2ニュートラルな燃料を使用した車両は販売可能な措置とすべきと主張した。
しかし結果は、明確に織り込まれず、”2026年の断面で欧州委員会は、PHEVの技術開発状況を含むゼロエミッションに向けたviable(実行可能)かつ社会的に公平な移行の重要性を考慮しつつ、2035年-100%目標の見直しの必要性を評価する。”という文言に落ち着いた事になり、つまりこの部分を拡大解釈すれば、E-fuelなど合成燃料+PHEVの可能性を再評価すると読めるわけだ。(該当の原文は以下の通り)
この文言に落ちついた背景は何か??この記事を見ると分かりやすい。
記事によると、最終的にドイツが妥協案(Compromise Proposal)として、”ハイブリッド自動車(ここで言うハイブリッドはPHEVを指す)の技術進展状況と、CO2ニュートラル燃料の可能性をブリュッセル(つまり欧州委員会)は再評価する。”という案を提示し、イタリア、ポルトガル等の5カ国もこれに賛成したとの事。
面白いのは、欧州委員会のティマーマンス上席副委員長のコメントもここで取り上げられており、”ECは引き続きオープンマインド(つまり技術ニュートラル)だが、現時点、PHEVは十分なCO2削減に寄与しておらず、代替燃料(合成燃料)は極めてコストが高い状況”とコメントしている。
また、最終的にジェネラルアプローチには、法規の条文部分ではなく、いわゆる前書き部分にあたるRecitalに下記文言が追加された。
直訳すると“ステークホルダーとの協議を経て、欧州委員会は、EU法規に準拠したCO2ニュートラル燃料のみ(つまり100%CO2ニュートラル燃料)で走行する車両をCO2フリート基準の枠外で2035年以降も登録できるようにするための提案を行う”というものだが、
つまり、いつまでに提案をしなければならないという期限は特に設定されておらず、CO2フリート基準の枠外という事で法的拘束力もなく、かつ、Shallではなくwill makeなので弱い表現で留めている事が分かる。
2. まとめと今後
やはりキーマンとなったのはドイツ。2035年の-100%を認める代わりに、合成燃料車の販売継続を可能とするルールを法文に記載するという主張が落しどころとなりそうであったが、結果的には2035年-100%かつ合成燃料の可能性は2026年に再精査という形で終息した。
その他のCO2削減目標値や、ZLEVインセンティブの廃止年限など、ほとんどのトピックスが欧州委員会提案を踏襲している。
3者のポジションをまとめると以下のようになる。
今後は、通常であれば欧州委員会、議会、理事会の3者による協議(いわゆるトライアログ)が夏休み明けには始まり、早ければ本年秋頃には最終合意、年内には改訂CO2規制の官報が発効となる見込みだ。
ただし、今回3者のポジションが非常に近いため、トライアログにて協議するトピックスがあるのか、もしなければスピーディーに最終合意に至る事も可能性としてある。
3. 各ステークホルダーの反応
参考までに今回の理事会の合意を受けて、欧州の各ステークホルダーがコメントをリリースしているので紹介する。
総じて言うと、自動車産業界側からは、
- 技術ニュートラルを強調しつつ、特定の技術に依存しすぎるのは新たな脅威に直面するリスクをはらんでおり、
- 強力な電動化シフトを敷くならば、インフラを含む関連法規の同期が必須で
- バッテリーの原材料確保に関わる強いstrategyが必要としている。
各ステークホルダーの主なコメントは以下の通り。
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